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Selfishly

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S,P 7「綻び」


スローライフ S 
          Pa 7 「綻び」

                 H18,12/10 23:15



結局、ロイは 事件に奔走されて戻って来れなかった。

しばらく司令部に泊り込みになるとの電話をもらい、
エドワードが 日常に必要な細々した物をまとめて
司令部に持ってきてやっている。

久しぶりの司令室に足を踏み込むと、
慌しそうに働いている皆の姿が目に入る。
門を入って時にも、気が付いたが
ピリピリした緊張感が、司令部内に蔓延しているようだ。

さすがに、エドワードが 門で止められるような事はなかったが
他に来訪して来ている人々は
厳重な検問を受けて入らされているようで、
門では、緊張した面持ちで待つ人々が
長い列を作っていた。


「こんちは。」
中を伺うようにして、控えめな声をかけて入っていくと
馴染みのメンバーが、エドワードを見とめて
表情を緩める。

「よぉ、大将。
 久しぶりだな。」

目の下に隈を作りながらも、
明るく返事を返してくるのは、ハボックだ。

「うん。

 忙しい時にごめん。
 これ、アイツに持ってきたんで。」

エドワードが手荷物荷物を見せると、
わかったと言う様に頷いて、
エドワードに椅子を勧める。

「えっ いいよ。
 忙しい時に悪いから、
 渡したら すぐ帰るし。」

「それが、中将
 今 会議で席はずしてんだ。

 な~に、もう終わりの時間だから
 少しだけ、待っててくれよ。」

「いや、でも・・・。」

皆の忙しそうな様子を目にして、
自分だけが のんびりとしているのは申し訳ない気がして
エドワードは、躊躇いの言葉を返す。

「エドワードさん、気にしないで待ってて下さい。」

「おう、本当に すぐ戻ってくるから
 ちょっとばかり、座っててくれよ。

 なんなら、執務室で待っててくれても
 構わないんだぞ。」

フュリーやブレダまでが、なかなか座ろうとしないエドワードに
腰をかけるようにと勧めてくる。

「どうぞ、エドワード君。
 あんまり美味しい物でもないですが。」

さっと出された、軍名物の薄いコーヒーを差し出してくれるファルマンに
さすがに エドワードも断りきれなくなって
おずおずと差し出された席に座り、いただきますと礼を伝える。

エドワードが、中将の帰りを待つことを示すと
一同が ホッとしたように、それぞれの仕事に戻る。

エドワードの相手を暗黙のうちに引き受けたハボックが
自分も一息とコーヒーを淹れて戻ってくる。

よっこらせと座る姿が、疲労を見せて
エドワードが 気ずかわしげに言葉をかける。

「難航してるのか?」

エドワードの言葉に、器用にコーヒーを飲みながら
タバコに火をつけるハボックが、
う~んと難しい顔をする。

「まぁ、確かに 事件は ここ最近ない大きなもんなんだけどさ。

 事件の事よりも、ちょっと中将が煮詰まっててよ、
 皆も影響受けて、ピリピリしちまうってか、
 びびってるってか・・・。」

オフレコだぞと話された内容の
事件の深刻さは、確かに 大事でもあった。
実は、監獄から集団逃亡したメンバーが居て
そのメンバーの狙いは、逆恨みの要人暗殺を企てている・・・そうだ。
そうだ、と仮定なのは あくまでも、暗殺のターゲットとなっていると
信じている某将軍の言葉を信じればと言う事になる。
ロイの上の、残り少なく、退役も近い高官の将軍と言う事もあり
ロイも管轄外と知らぬ顔を出来ない状況になっている。

自分の子飼いの将軍達では手に余ると判断した相手は
すぐさま上官命令でロイに捜査の一任を押し付けてきた。

「自分の部下の不始末を押し付けられたんじゃ、
 中将もいい顔するはずがないだろ?

 最初は 『ターゲットになってるなら、囮にくらい役立て』とか
 内輪に息巻いてた位なんだぜ。

 まぁ、もう先行きも短いんだから
 そう言う中将の気持ちもわからない事ないんだけどさー。

 でも、本当に困ってんのは事件の事でもないんだ、これが。」

深々とため息を吐くハボックの様子に、
エドワードは 薄々、ハボックの言いたいことを察する。

「アイツ・・・機嫌悪いとか?」

エドワードが 先に聞いてやると、
ハボックが、大きく頷く。

「なんか あったんか?」

そう聞いてくる相手に、エドワードも浮かない表情を浮かべる。

『あったと言うか、なかったから問題なんだろうな。』

黙り込んでしまったエドワードに、
ハボックが 懇願するように話を続ける。

「大将、もし中将になんか腹立つ事とかあって怒ってるんだったら
 許してやってくれよ。
 
 あの人も悪気があっての事じゃないはずだし。」

なっなっとっしきりと自分を宥めようとしているハボックに
済まない気持ちで、エドワードは違う事を告げる。

「いや、別に喧嘩とかしてるんじゃないんだ。」

それだけを告げると、飲みもしないコーヒーを見つめて
黙り込んでしまったエドワードに
ハボックも、う~んと唸りながら 頭を掻いて
エドワードを見る。

『どうやら、俺らが口出せる事じゃないようだな。』

エドワードの様子に、立ち入り不可の領域を察して
ハボックは、さりげに話を変える。
しばらく、エドワードの大学生活の話に華が咲かせていた頃に
不機嫌極まりない様子で、ロイと 付き従っていたホークアイが
戻ってくる。

「全く、同グループの犯罪者達を
 同じ監獄の敷地に入れる無能さには 呆れるな。

 逃げてくださいと言ってるようなものじゃないか。」

声高に非難して愚痴る言葉に、
司令部のメンバーが首を竦める。
こういう時の上司には逆らわない方が良いのは
長い付き合いで解っている。
どんなところに飛び火して、とばっちりを食うか
わかったもんじゃない。

「大体、お門違いなトラブルを回してきといて
 犯人逮捕を せっかれても困る。

 自分の部下の不始末も拭い切れないで
 何が 将軍だ。
 全く、軍の老いぼれどもは度し難い。」

上官誹謗で聞きとがめられても仕方がないような事を
普段、慎重な 上司が、いくら自分の指令室内とは言え
こうおおっぴろに公言してはと
皆が 冷や冷やしている状態に、常に頼みの綱の
ホークアイが 窘める。

「中将、お気持ちはわかりますが、
 余り大きな声で話されますと、
 どこに耳目があるかわかりませんのでお控え下さい。」

冷静に告げられた言葉にも、不機嫌がピークに達しているロイには
効果が薄かったようだ。

「ふん、聞かれたからと 何が出来るという輩達でもない。
 
 せいぜい、自分の命惜しさに 家に引きこもって
 警護に包まって寝てるのがオチだ。」

心底、馬鹿に仕切っているように
鼻で せせら嘲笑う。

「中将・・・。」

ほとほと困り果てたように、ホークアイがため息をつく。
そして、ふと室内に救世主の姿を見つけて
上司の怒りの矛先を変える。

「中将、あんまり ご不満ばかりを愚痴っておられては、
 せっかく来てくれたエドワード君も ガッカリされますよ。」

そう言って、ロイの視線をエドワードの方に向けさせると、
ロイは 驚いたようにポカンと口を空けたまま立ちすくむ。

「よぉ。」

気まずそうに挨拶をしてくるエドワードの様子に
ロイは 罰が悪そうに、微笑み返す。

「いや・・・そのぉ、

 まぁ、だからと言って仕事を放棄するとかではないんだよ。」

言い分けめいた言葉を返しながら、
エドワードに近寄り、司令室に入るように誘う。

「うん、そんな事 皆、わかってるさ。
 あんたが、一生懸命に仕事に取り組むって事もな。」

部屋へ案内されながら、ロイには気づかれないように
メンバー達に目配せを送る。

「もちろんだとも。
 なぁ~に、こんな事件など すぐにでも片付けて
 戻ってみせるとも。」

入ってきたときとは大違いの、ご機嫌な様子で
エドワードの言葉に、気前の良い返事を返している。

二人が入って、パタンと閉じられたドアの外では
皆が、『やっぱり、エドワードでないとなぁ~』と
認識を再度、深く改めた。

「でも、喧嘩とかしてた風には見えませんでしたよね。

 じゃぁ、中将の不機嫌の原因ってなんだったんでしょう?」

フュリーが首を傾げながら、呟いた言葉に
ハボックは 「まぁ、色々とあるんだろ。」とさりげなく流して
その追求を止めた。

そして、さらに詳しい事情を知っているホークアイは
気遣わしげな表情で、閉められた扉の先を見る。



「久しぶりだね、君が ここに来るのは。」

エドワードを ソファーに座らせ
自らお茶を淹れてやる。

「そうだよな。
 ここんところ、こっちでは皆に逢う事ってなくなってたから
 なんだか、懐かしい気にさせられたよ。」

軍に、極力 関わらせるのを良しとしないロイの為、
最近は 家に皆が訪問する事が多かった。

向いには座らず、自分の横に座る男を見る。
少々、疲れてはいるようだが
今は、機嫌も良さそうで ホッとする。

エドワードは ロイの不在の間に考えた事を
ちゃんと伝えなくてはと、拳に力を入れて
ロイを見上げる。

「そのぉ、ロイ・・・
 あの・・・、この前の晩の事なんだけど・・・。」

言い淀むエドワードの先の言葉を聞かずに
ロイは、エドワードに笑顔を向けて
続きを遮る様に、話し出す。

「エドワード、
 この前は 済まなかったね。

 私も、少し性急過ぎたと反省したよ。」

ロイの言葉に、エドワードが驚いたように顔を上げる。

それに大丈夫だと言う様に微笑んで、
ロイは 話を続ける。

「焦らなくていいんだ。
 私も ちゃんと待つつもりだし、
 君に無理をさせる気もない。

 これまでと変わらず居てくれるね?」

そう告げてくるロイに、エドワードは 告げようとしていた言葉を
言う勇気が、萎んで行くのを感じる。

「君は 何も心配することはない。
 これまでと変わらず過ごしてくれてれば
 それでいいんだ。

 私も君を困らせる事はしないと誓う。」

そう言って、優しく回された腕が
エドワードを宥めるように抱きしめるが
それは、親愛の情のように柔らかだった。

その後、大学まで送ると言うロイを宥めて
司令部を出た後、エドワードは 大きなため息を吐き出しながら
自分の勇気の無さを、叱咤してやりたくなった。

『本当は俺・・・、
 今度 ロイが戻るまでには、ちゃんと考えて
 覚悟もつけておくって言いたかったんだけど。』

ロイは知らず知らずのうちに、
自分が 望んでいた答えを塞いでしまう結果となっていた。

エドワードは、彼なりに考えて悩みながらも
ロイとの関係を進展させようと勇気を奮い起こして
司令部にやってきた。
ただ、その勇気は まだまだか弱く、
ロイの優しさに、甘えてしまうほどの小さなものだったから、
『待ってくれる』というロイの言葉に
エドワードは 告げるタイミングを見逃す事にしてしまった。

ロイは エドワードが大切すぎて、
失う事の恐れに、判断を誤ってしまっている。
彼は、エドワードは そんなに弱い存在ではないと言う事を。
昔から彼を知っている人間がいれば、
守られているだけで、安寧と過ごすような人間でないことなど
解りきっている事なのだが、
今のロイにとっては、エドワードに嫌われる事が何よりも
恐ろしいのだ。
あんな後で、戻った時にエドワードが居なかったり、
態度が変わってしまうような事があったらと
危惧しすぎて、エドワードが ロイの願いに
前向きに考えていたこと等、考えもつかなくなっていた。

そして、エドワードは 甘えていると思いながらも
ロイがくれた猶予の時間を甘受する事にしてしまう。




「誕生パーティー?」

大学でフレイアに声をかけられて話していると
そんなお誘いがきた。

「ええ、そんな大げさなものじゃないのよ。
 母の誕生日は恒例で、親しい人を誘って行うの。

 ナニーも、当然 出るんだけど
 そう親しい人がいるわけでもないから
 出来れば エドにも今年は来てくれないかって。」

「マギーさんも、出るんだ。」

「そうなのよ。
 彼女は、私達にとっては家族同様なんだけど、
 他の人には、そんな事わからないじゃない?

 で、私達も出来るだけ 傍にいたりはするんだけど
 やっぱり、挨拶とかがあると ずっと一緒と言う訳にはいかないでしょ?

 だから、少しでも知り合いのあなたが来てくれればって
 マギーと両親からのお願いなの。」

そう言われると、確かに老齢のマギーが
知らない人間に大勢囲まれて長い時間を過ごすのは
気の毒に思える。

そんな考えが表情に浮かんでいるエドワードを見て
フレイアは 言葉を続ける。

「ナニーは いつも、出なくていいって言うんだけど
 母があのとうりの人でしょ?
 
 いつも、ナニーに 傍に居てもらうのが普通に
 なっちゃってて、ナニーが出ないなら
 パーティーはしないって言うから、困っちゃうのよ。」

妻を溺愛している夫は、自分の誕生日はおざなりでも
妻の祝い事には、どんな些細なものでも
祝福をしなければ気が済まない人間だ。
エドワードも 1度きりしか逢った事はないが
なんとなく、フレイアの言っている事が理解できた。

「駄目かしら?
 何か 予定が入ってる?」

そう聞かれると、特に予定が詰まっているわけでもない
エドワードは、正直に返事をする。

「じゃあ、お願いできるかしら?」

「うん・・・、何か場違いな気もするんだけど
 皆さんが 構わないなら。」

控えめに了承の返事を返すエドワードに
フレイアは 嬉しそうに微笑みながら
当然と頷く。

「場違いなんて事はないわよ。
 パーティーと言っても、内輪のものだから
 そんなに規模も大きくないし、
 場所も、父の馴染みのレストランを借り切っての気軽なものなのよ。」

「えっ? 家ではしないんだ?」

内輪の集まりと聞いて、てっきりホームパーティーみたいなものを
想像していたエドワードが、聞き返す。

「ええ・・・、家でやると
 ナニーに負担が大きくなるし
 招待者にならなくなるでしょ?

 だから、当日は お料理は別の所でって事になってるの。」

そう言われると、なるほどとエドワードも頷く。
確かに いかに、料理のプロでも
何十人もの料理を一人でこなすのは大変だろう、
家族を思っての、フレイア達の思いやりなのだろう。

ありがたく招かれると言うエドワードに、
フレイアが嬉しそうに楽しみにしている事を告げて
自分の教室に出かけていった。


大げさな催し物には気が引けるエドワードだが、
まぁ、家族の内輪のパーティー位ならと安易に考えて
招待を受けた。

が、由緒ある名家の妻と 代々の大きな総合の病院を営む父親。
そんな家が開く内輪のパーティーと言うものが
どれだけの規模で開かれるかが、エドワードには
理解に及ばない事だったと気づくのは
当日のことになる。



「な~に、話してたんだよ。」

教室で、二人が話すのを興味津々で見ていたディビット達が
フレイアが去った後、すぐに声をかけてきた。

「あ、うん。
 何か、内輪でやる誕生会に呼ばれたんだ。」

「誕生会に呼ばれた~?」

「ああ、フレイアのお母さんのだそうなんだ。」

「・・・それにエドが 誘われたの?」

不思議そうに首を傾げるアルバートに気づいて
事の顛末を話す。


「ふ~ん、でお前は彼女のナニーとやらの
 付き添いで行くってわけだ。」

「うん、今 彼女から料理を教わってるんで
 親しい人がいる方がいいって言われて。」

素直に そう話すエドワードに、
ディビットとアルバートは、複雑な表情を浮かべて
互いに顔を見合わせている。

何か そんなにおかしな事だろうか?と
しきりに二人の様子に、考え込むエドワードに
ディビットが 率直にエドワードに質問をしてくる。

「なぁ、エドワード。」

「なんだよ?」

「お前ら、付き合ってんの?」

言われた言葉の意味が解らず、
ポカンとしているエドワードの様子に焦れて
ディビットは、再度 質問をする。

「だ~か~ら!
 お前とフレイアは、付き合ってんの?
 って、聞いてんの。」

ニヤニヤと笑って言われた言葉に
やっと、理解が追いついて
エドワードが 慌てたように否定を告げる。

「まさか!
 彼女には ちゃんと前に断ってるし、
 今回の事も、彼女って言うより
 マギーさんの頼みでもあったから。」

焦ったように告げられる言葉に
二人は納得したような顔を見せない。

「そうかぁー?
 俺らはてっきり、付き合うようになったのかと
 思ったけど?」

ディビット達のからかいにも、そんな事は絶対にないと
告げるエドワード様子に、
エドワード自身に、そんな気がない事は二人にもわかった。

「でも、エド。
 彼女の方は どうなのかな?」

神妙な表情で聞かれた内容に
正直、エドワードは思いも付かなかった事に気づく。

「いや・・・でも、
 以前に きっちりと断ってるし
 彼女も、そんなに拘ってるようには
 見えないから・・・大丈夫だと思う。」

語尾が弱くなるのは仕方が無い、
エドワード自身は すっかりと片付いた気になっていたので
フレイアの考えまでは、思った事がなかったのだ。

「エド~、俺らが言った事を忘れたのか?」

「ディー達が、言った事?」

首を傾げるエドワードに
ディー達は、あ~あ~っと天井を見やる。

「言っただろうが!

 付き合う気がないなら、
 相手に構うなよって。」

勢い込んで言われた言葉に
エドワードは、思い出したように 頷きながら
相槌を返す。

「断ったのに、構ったりしたら
 変な誤解を相手に与える事にもなるんだぜ。」

そう言うディビットの言葉に
曖昧な表情で頷き返す。

「お前なぁ~、
 多分、恋愛に疎いからだろうけど
 女ってのは、そんなに簡単にあきれめたりしないぜ。

 んで、うっと惜しいくらい付きまとってたかと思うと
 気が変わったら、アッサリと捨てやがるしよ~。」

そこからは ディビットの過去の経験話に付き合わされる事になった。
悔しさを滲ませながら話される内容は
エドワードには ピンとこない話で、
熱心に相槌を打ちはするが、
他人事でもあるので、聞いた傍から流れ去っていった。

どこかで聞いた話だと思う程度にしか記憶にはとどまらず、
そして、ディビットの顔が 何やら、ハボックの顔を思い出させて
思わず おかしくなって、笑い出しそうになる。

本当は、エドワードは ディビットの話から
きちんと学んでおくべきだったのだ。

恋をした女性が、いかに強かで策略家なのかを。
執念とも、妄執とも言われる言葉の形容詞にもなる異性の事を。
恋愛事情に疎いエドワードに、解れと言うのは
無理な事かも知れないが・・・。



「えっ? 今週も行くのか?」

ロイの思惑を裏切って、事件は難航していた。
ロイの司令部泊り込みも週末まで長引いた夜、
今から 東部に向かうというロイの電話に
エドワードが 驚いたように返事を返す。

『ああ、こちらの事情で先方に迷惑をかけるわけには
 いかないからね。』

「でも・・・、
 大丈夫かよ?

 結構、無理してるんじゃないのか?」

ロイの身体を気遣って告げるエドワードに、
ロイは 大丈夫だと明るく請け負う。

「でも、事件 解決してないんだろ?

 そんな時に不在にして大丈夫なのか?」

いくら優秀な部下達が頑張っているとはいえ
事件の大きさを考えると、司令部に司令官が
居なくて大丈夫なのだろうかと心配になる。

『ああ、不在の間は ホークアイ中佐が指揮を執るし、
 今は 情報を集めている段階で
 目覚しい動きもないんでね。』

そんなものなのかと思いながら、頑張るように励ましの言葉を告げる。

「んで、日曜は帰って来られるのか?」

エドワードは、ロイが戻ってくるなら
出来るだけ精の付くものを用意してやろうと考える。

『・・・何とか戻りたい。

 取りあえず、戻り次第司令部に顔を出して
 その後に、戻る時間を作ってみせるよ。』

力の入ってロイの声に、
そこまでして、東部に行く必要があるのかと
口に出しそうになるが、
ロイには ロイの仕事がある。

エドワードは わかったと告げて、
ロイの帰りを待つことにする。



電話を切った後、エドワードは ここ最近の
ロイの過剰な勤務を思い浮かべる。

確かに、事件が発生すれば 今回のような事も
ないではなかったし、
現場で陣頭指揮をしていた大佐の頃は
司令部に寝泊りなど、日常茶飯事とも聞いていた。

が、ここ最近の激務ぶりは どうにも眼に余る。
以前の市民を巻き込んでの事件の時にも
週に何度かは 帰って来れていたのに。

そんな時に東部での仕事まで請け負って
本当に大丈夫なのかと心配になる。

が、心配をしていても エドワードに出来ることは限られている。
特に 軍からは離れて、研究を主な職務として
戻ってからは、ロイが嫌がる事もあり
軍には出入りをしなくなってもいた。
今更、手伝いを申し出ても、皆の足を引っ張る事にしか
ならない気がして、二の足を踏んでしまう。

そんな杞憂は、全くと言って良いほど無いことは
本人以外は解っている事ではあったが。



エドワードは今日教わる料理の食材の買出しに市場に寄る。
とにかく、戻ってきたロイに 美味しいものを食べてもらう事しか
今の自分に出来ることはないだろうと、
今日の 料理にも気合を入れて取り組むつもりだ。

市場で、食材を吟味していると
馴染みの顔が、エドワードを見つけて 近づいてくる。

「よぉ!」

「ハボック少佐。」

意外な所であったと、互いに顔を見合して笑顔を浮かべていると
ハボックが キョロキョロと周囲を見回す。

「どうかしたのか?」
何か不審者でも見つけたのだろうか?と
サッと緊張を敷くエドワードに
ハボックは 特に緊張をしている素振りもなく、
エドワードに尋ねてくる。

「大将一人か?」

「えっ・・・そうだけど?」

ハボックの質問に、エドワードが不思議そうな表情を浮かべる。

「ふ~ん。
 なんか、どこに行くのでもべったりと付いて回ってるかと
 思ってたら そうでもないんだな。

 まぁ、さすがの中将も 疲れてダウンしてるってとこか。」

ハボックの言葉に、エドワードは不審そうな表情を浮かべ
その後、はっとなったように表情を変える。

『ハボック少佐には、知らせてないんだ・・・。』

軍にも秘密だと言っていたロイの言葉に
まさか、腹心の部下にまで黙っていたとは思わず
エドワードは 取り繕うように、急いで頷いて返事を返す。

「あっああ、うん。
 俺は 今から料理を教わりに行くんで、
 別行動なんだ。」

そんなエドワードの様子に、なるほどと頷いて
ハボックが 任務の途中だからと人込に紛れて行くのを
エドワードは、気難しい表情で眺める。

『いくら、恩ある将軍の事とは言え、
 ハボック少佐にも知らせてない?』

確かにロイはポーカーフェイスが上手いし
自分の考えを悟らせない事も多々ある。

けど、最終的には 行動の目的は明かさなくても
皆を迷わせない指示は与えてきた。

昔から、エドワードには告げられずにいた事でも
きちんと、メンバー達は理解して動いていた事を
何度となく経験させられてきた。

そんなロイが、全くの知らせずに単独で動く事など
あるんだろうか?
エドワードは 浮かんできた疑問が2つ目になる
ここ最近のロイの行動を考える。



「市内査察から戻りました。」

どんなに事件が勃発していても
通常の勤務もかわりなくこなさなくてはならない。
軍では 当たり前な事ながら、ハードな事だと息をつく。
司令部を見渡すと、そこにはホークアイしか居らず
皆が出払っている事を示している。

「お帰りなさい。」

ホークアイの言葉に、どうもと礼をしながら
近づいていく。

「皆は、出かけてるんっすか。」

「ええ、情報の出所から 確証を取りに出かけてるわ。」

「そうっすか、なら もうじき忙しくなりますね。」

確証に動いていると言う事は、
そろそろ事件も大詰めに入ってるという事だ。

ハボックは よいしょと許可も無く
ホークアイの傍の椅子を引いて腰をかける。

そして、じっと黙って仕事をこなしている彼女を見る。

そんなハボックの様子に、ホークアイも
不思議そうに尋ねる。

「ハボック少佐?」

ハボックは、自分に問いかけられる彼女の表情を見ながら
ゆっくりと言葉を告げる。

「中佐、中将は 何をやってるんですか?」

じっと自分の目を見つめてくる相手に
ホークアイは、表面上 全く変わらず
「どう言う事?」と返してくる。

「さっき、エドワードに街で会いました。
 
 てっきり、戻ったあの人が 傍に張り付いてるだろうと
 思ったけど、居ませんでした。」

「そう、じゃあ 家でお休みなんでしょ。」

そっけなく返される彼女の言葉にも
ハボックは 気にせず、自分の推測を語る。

「大将は、俺が中将の事を聞くと
 不思議そうな表情で俺を見て、
 驚いた様子でした。

 んで、その後 何か急いで表情を取り繕って
 言い訳をしてましたけど。


 中将・・・家に居ないんですよね?

 しかも、ここ最近 いつも。」

どうも、ここ最近の休日明けのロイの様子が微妙な事に
ハボック達が怪訝に思っていた事も
中将が 休みの度に、家に入れない事情があると言うなら
納得もできる。
あのエドワードに下手甘な上司だ。
好きで エドワードの傍を離れるとは思いがたい。
なら、嫌々ながらも出なくてはならない理由が
あると言う事だ。
しかも、自分達にも知らせずに。

ハボックは 少なからずショックを受けてもいた。
長い年月、死闘を越えながらやってきた仲だ
解らない指示に振り回される事はあっても、
全く知らされない事など1度もなかった。
そんなロイが、自分達にも話さないような事があったのだろうか?

「ハボック少佐。
 誤解のないように言っておきますが
 あなた達に話さなかったのは、
 あなた達に隠さなくてはいけなかったからではなくて、
 中将個人のプライベートな事柄だったんで、
 言えなかったと言う事なのよ。」

「プライベート?」

「ええ、話せば間違いなく 反対される事は
 解っていたし、私も無理だとお話したんだけど

 あの方も、エドワード君の事になると
 どうも、判断が鈍る事が多くて・・・。」

ため息ながら話された内容を聞くうちに
ハボックの表情が、深刻な顔から
心底 呆れた顔に変わっていく。

「何やってんですか、あの人は。」

呆れため息を吐きながら、
ハボックは 頭を痛める。

「あなたも、反対?」

そう聞いてくる彼女に、ハボックは当たり前ですよっと
大きく頷く。

「いや、大佐の気持ちはわかります。

 けど、あの大将ですよ~、
 隠して続けるのには無理があるでしょうが。」

「そうなのよ、
 私も そう言ったんだけど。」

「どうしてもってんなら、大将には ちゃんと
 話してわかってもらうようにしないと。」

その後の事が怖い・・・ハボックは 想像するだに
恐ろしい事になりそうだと身震いする。

「ええ、でも 妙なところで臆病なとこがあって、
 言い出せないでいるようなの。」

どうしたら良いのかという風に吐き出されたため息をつく
彼女を見ながら、ハボックは決意を持って告げる。

「すんません、俺は知らなかったと言う事で。」

危機を知らせる本能が、関知するなと警告を発しているのを
敏感に察知したハボックは、
さっさと立ち上がり、自分の席に逃げるように戻ろうとする。

「ハボック少佐。」

低い、冷たい声が届いてくる。
ハボックは 振り向きたくないと思いながらも
上司の呼びかけに、恐る恐る向きなおす。

「とにかく、無謀な事とはいえ
 中将が 手を出してしまった限り、
 私達が無縁ではおれないものよ。

 わかってるわね。」

にっこりと微笑まれて告げられた言葉は
今後の運命を一緒に背負わなくてはならない決定を
告げていた。

不機嫌な上司にも、怒るエドワードにも
どちらにも遭遇したくないと思いながら
ハボックは 涙目になりながら、
ホークアイの言葉に頷くしかなかった。





「どうかしたの?
 今日は 上の空だったようだけど?」

フレイアが門まで送ると付き添って屋敷を出ると
気にかけたようにエドワードに声をかけてくる。

「えっ? ああ、いや ちょっと論文の事で
 考えてただけなんだ。」

「論文?

 ああ、そうね。
 そろそろ、進級試験が近づいているものね。」

「ああ・・・うん、そうなんだ。
 
 スキップできればと思ってるから・・・。」

 もっともらしい理由を告げるエドワードに
フレイアも頷く。

通常の試験程度なら、エドワードが悩む程でもない
が、スキップを狙っている言うなら
やはり、エドワードでも荷が重い事もあるのだろう。

納得したように頷く彼女を見ながら、
エドワードは 今日の料理の出来栄えにため息をつきたくなった。

今日は、何度もマギーにも注意されたが
凡ミスが多く、あまり良いという出来栄えにはならなかった。
マギーは、そんな日もあるからと笑って言ってくれたが
せっかくロイが戻ってくると言うのに
こんな物を食べさせるのは、申し訳ない気がした。

かと言って、もう 作り直す時間もないし、
短時間では たいした物を作れない。

帰り際、マギーに謝っていると
彼女は、笑いながら首を振り
エドワードに こっそりと呟いた。

『心配事を無くしてからチャレンジすれば
 上手くいくのよ。』

そう悪戯ぽい笑みを浮かべて告げられた言葉に
エドワードも苦笑して頷き返した。



「エドワード、進級テストは
 まだ、時間があるんだし
 そう煮つまらないでいましょうよ。

 それに、来週のパーティーで
 そんな心配事も発散させちゃいましょうね。」

明るく笑顔で告げられる言葉に
エドワードも、そうできればいいのにと思いながら
頷きかえす。




エドワードの悩みは、結局 司令部からは
戻れなかったロイのせいで解消された。

その夜、食べられる事のなかった試作品の料理を捨てながら
エドワードは自分の中に生まれた疑念を消せずに過ごすことになる。

その頃、ロイは そんなエドワードの悩みも知らずに
何やら、冷たい目で自分をみているようなハボックの態度に
気のせいかと?首を傾げる事になる。
そんなささやかな疑問は、その後の大捕り物に追われる事になり
すっかり忘れ去られていった。




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